ビジネスメールなどでよく使われる「拝見しました」と「拝読しました」。
どちらも丁寧で敬意を込めた表現に見えますが、実は使い分けを間違えると少し不自然に感じられることがあります。
たとえば、上司から送られた資料を見たときに「拝読しました」と書いてしまうと、相手によっては「読むほどの文章ではないのに?」と違和感を持たれることも。
逆に、著書や長文のレポートに「拝見しました」と返信してしまうと、「読むものなのに“見る”扱い?」と思われてしまう場合があります。
この記事では、「拝見しました」と「拝読しました」の意味の違いと正しい使い分け方を、例文を交えながらわかりやすく解説します。
読み終えたころには、きっと迷わず使い分けられるようになっているでしょう。
拝見しました・拝読しましたの違いとは
それぞれの意味と使う場面
まず基本となるのが、「拝見」と「拝読」のもとの動詞です。
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「拝見」は「見る」の謙譲語
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「拝読」は「読む」の謙譲語
つまり、相手の資料・作品・文章などを“自分がへりくだって見る・読む”ときに使う言葉です。
このように「拝〜」の形をとる言葉は、相手を立てて自分を下げることで、丁寧さを表します。
たとえば、
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写真や動画、資料など「視覚的に確認するもの」 → 拝見しました
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書籍やレポート、メールなど「文字を読むもの」 → 拝読しました
というように、対象が「読むもの」か「見るもの」かで使い分けるのが基本です。
誤用されやすい理由
ところが、実際のビジネスシーンではこの2つがしばしば混同されます。
その理由は、「文章を読む」という行為自体が“目で見る”ことを伴っているためです。
たとえば「メールを拝見しました」という言い方もよく使われますが、厳密には「読む」行為なので「拝読しました」の方が正しいとされることもあります。
しかし現実には、「メール」や「資料」は“見る”と“読む”の中間のような存在です。
そのため、多くのビジネス現場では「拝見しました」が広く受け入れられています。
このように、「拝見」と「拝読」は文法的な正しさだけでなく、相手がどんな印象を受けるかによっても使い分ける必要があります。
次の章では、それぞれの使い方をより具体的に見ていきましょう。
「拝見しました」が正しい場面
資料・写真・動画など“目で確認するもの”に使う
「拝見しました」は、目で見て確認する行為に対して使うのが基本です。
たとえば次のような例があります。
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「ご提案資料を拝見しました。」
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「お送りいただいた動画を拝見しました。」
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「展示会で御社の新製品を拝見しました。」
つまり「読む」というよりも、「見る」「確認する」といったニュアンスを含む対象に使うのが自然です。
特に、図表・スライド・画像・映像などの“視覚的な情報”に対して使うと、丁寧で違和感のない表現になります。
送信者の立場をへりくだる表現
「拝見」は、相手が作成した資料や作品に敬意を示しながら、自分の立場を下げる言い方です。
たとえば「拝見させていただきました」は、「見ました」よりもずっと柔らかく、相手を立てた印象になります。
ただし、「拝見いたしました」や「拝見しました」で十分丁寧なので、「ご拝見しました」などの二重敬語には注意が必要です。
また、「拝見させていただきました」はやや冗長に感じる人もいるため、ビジネスメールでは「拝見しました」とシンプルにまとめるとスマートです。
次は、逆に「拝読しました」が正しい場面とその使い方について解説します。
文章やメールなど、“読む”行為が中心となるケースでのポイントを具体的に見ていきましょう。
「拝読しました」が正しい場面
文章・本・メールなど“文字を読む行為”に使う
「拝読しました」は、文字を読んで内容を理解する行為に使うのが正しい用法です。
たとえば以下のような文でよく使われます。
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「先生のご著書を拝読しました。」
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「お送りいただいたメールを拝読しました。」
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「記事を拝読し、大変感銘を受けました。」
このように、「拝読」は書面や文章など“読む”ことを前提とする対象に使います。
また、「読む」という行為に敬意を込めることで、相手の文章や表現を丁寧に受け止めているという印象を与えます。
特に、「ご著書を拝読しました」「記事を拝読しました」などは、感想や謝意を添えることでより自然になります。
たとえば、
「先生のご著書を拝読し、学ぶところが多くございました。」
「貴社の記事を拝読し、貴重なご意見に深く共感いたしました。」
といった形にすると、フォーマルかつ好印象な文章に仕上がります。
「拝読」と言い切るとやや堅い印象に
「拝読しました」は、正しい敬語でありながらやや格式の高い印象を与える言葉です。
そのため、社内メールなどカジュアルなやり取りでは少し堅苦しく感じられることがあります。
たとえば、社内連絡で「資料を拝読しました」と書くと、場面によっては「少し距離を感じる」と思われるかもしれません。
一方、社外の取引先や、目上の人へのメールではむしろ好印象です。
このように、「拝読しました」はフォーマルな相手・文書に使うと最も自然ですが、職場内では状況に応じて「拝見しました」など柔らかい表現に置き換えるのもよいでしょう。
次は、どちらを使うか迷いやすい「グレーゾーンのケース」を取り上げます。
特に「メール」「ブログ」「SNS」など、見るとも読むとも言える場面では、どちらの表現がふさわしいのか判断が分かれがちです。
迷いやすい“グレーゾーン”の表現
「メールを拝見しました」と「拝読しました」どちらが正しい?
もっともよく迷うのが、この「メール」に関する使い分けです。
結論から言うと、どちらも間違いではありませんが、場面によって自然さが変わります。
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内容を丁寧に“読んだ”ことを強調したい → 「拝読しました」
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受信・確認のニュアンスを重視したい → 「拝見しました」
たとえば、次のように使い分けると自然です。
「お送りいただいたご提案内容を拝読しました。とても興味深い内容でした。」
「ご連絡いただいたメールを拝見しました。ご案内ありがとうございます。」
つまり、内容を吟味した場合は「拝読」、受け取って確認しただけなら「拝見」が自然です。
ビジネスメールでは、読み手がどう受け止めるかを意識すると印象が大きく変わります。
「拝読しました」は丁寧で誠実な印象を与えますが、やや堅く響くため、
日常の社内メールでは「拝見しました」が無難といえます。
SNSやブログなど“読む+見る”両方のケース
SNSの投稿やブログ記事などは、“文章を読む”だけでなく、“写真やレイアウトを含めて見る”という要素もあります。
このような場合は、「拝見しました」の方がより自然です。
たとえば、
「素敵な記事を拝見しました!」
「お写真を拝見し、季節を感じました。」
といった表現は、X(旧Twitter)やInstagramなどでもよく見られます。
一方で、「ブログを拝読しました」という言い方も間違いではありませんが、
フォーマルすぎてSNSでは少し距離を感じさせてしまうことがあります。
そのため、オンライン上では「拝見しました」=柔らかく、親しみやすい印象を与える言葉として定着しています。
次は、実際のビジネスメールでの「使い分け例文集」を紹介します。
社外・社内それぞれのシーンに合わせて、自然に使える文章をまとめます。
ビジネスメールでの使い分け例文集
社外・取引先に送る場合
社外の相手には、より丁寧で格式のある言い回しが好まれます。
特に「拝読しました」は相手の文章や提案内容を丁寧に受け取った印象を与えるため、フォーマルな場面で効果的です。
例文:
「お送りいただいたご提案書を拝読しました。貴重なお時間を割いて作成いただき、誠にありがとうございます。」
「先生のご著書を拝読し、深く感銘を受けました。」
「いただいたメールを拝読しました。ご丁寧なご連絡、誠にありがとうございます。」
このように、「拝読しました」は丁寧・真摯な印象を与えたいときに最適です。
特に初対面の相手や、年長者・役職者に対して使うと好印象を得やすいでしょう。
社内・上司への返信例
一方で、社内メールや日常業務のやり取りでは、「拝見しました」が自然です。
堅苦しさを避けつつ、相手への敬意をしっかり伝えられます。
例文:
「資料を拝見しました。内容をもとに修正案をまとめました。」
「ご連絡いただいたスケジュールを拝見しました。問題ございません。」
「プレゼン資料を拝見し、デザインの方向性を確認いたしました。」
「拝見しました」は、相手の行動に敬意を払いながら、確認報告をするのに適した表現です。
とくに日常的な業務連絡では、「拝読しました」よりも柔らかく、使いやすい印象になります。
フォーマルな挨拶文例
書面での挨拶やメッセージカードなど、より改まった文書では「拝読しました」を使うと文章全体に品が出ます。
例文:
「貴社の社史を拝読し、長年にわたるご尽力に深く敬意を表します。」
「ご寄稿を拝読しました。ご高説に大変勉強させていただきました。」
「お手紙を拝読し、温かいお心遣いに感謝申し上げます。」
このように、「拝読しました」はフォーマルな書簡文の中で非常に相性が良く、
感謝や敬意を強調したい場面にふさわしい表現です。
次の章では、「拝見しました」や「拝読しました」と混同されやすい
類似表現との違いを整理していきます。
「読ませていただきました」「見ました」などとの使い分けを明確にして、表現の幅を広げましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1:「拝読しました」はメールで使うと堅すぎますか?
→ 少しかしこまった印象を与えるため、社外メールでは好印象ですが、社内ではやや硬いと感じられることもあります。
業務連絡や報告では「拝見しました」が自然ですが、丁寧に伝えたいときは「拝読しました」でも問題ありません。
Q2:「ご拝見しました」は間違いですか?
→ はい、誤用です。
「拝見」はすでに謙譲語のため、「ご」を付けると二重敬語になります。
正しくは「拝見しました」「拝見いたしました」と言います。
Q3:SNSで「拝見しました」は不自然ですか?
→ 不自然ではありません。むしろSNSでは「拝見しました」が一般的です。
「拝読しました」は文章に対して使うため、フォーマルすぎる印象になりがちです。
投稿や写真に感想を添える場合は「拝見しました」の方が柔らかく自然です。
Q4:「読ませていただきました」と「拝読しました」はどちらが丁寧?
→ 敬意の強さでは「拝読しました」が上です。
ただし、「読ませていただきました」は自然で親しみのある丁寧語なので、社内やカジュアルなビジネス場面ではこちらが向いています。
Q5:「資料を拝読しました」と書いても失礼ではありませんか?
→ 失礼ではありませんが、やや堅い印象になります。
内容をじっくり読んだ場合は「拝読しました」、ざっと確認しただけなら「拝見しました」が自然です。
相手がどう受け取るかを意識して選ぶのがポイントです。
まとめ
「拝見しました」と「拝読しました」は、どちらも相手に敬意を表す謙譲語ですが、使う対象が異なります。
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拝見しました:目で確認するもの(資料・写真・動画など)に使う
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拝読しました:文字を読むもの(書籍・メール・記事など)に使う
このように、対象が“見るもの”か“読むもの”かで判断するのが基本です。
ただし、実際のビジネス現場では「メール」「資料」などのように中間的なケースも多く、
相手や場面に応じて自然に聞こえる方を選ぶ柔軟さが大切です。
たとえば、
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フォーマルなやり取りや文書 → 拝読しました
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日常的な業務連絡や社内メール → 拝見しました
といったように、文体のトーンに合わせて使い分けると好印象を与えられます。
また、「ご拝見しました」などの二重敬語には注意し、
迷ったときは「拝見しました」を選ぶのが無難です。
最後にもう一度ポイントを整理すると、
| 状況 | 適した表現 | 印象 |
|---|---|---|
| 写真・動画・資料を見る | 拝見しました | 柔らかく自然 |
| 書籍・メール・文書を読む | 拝読しました | 丁寧でフォーマル |
| SNS投稿を見る | 拝見しました | 親しみやすい |
| 初対面の相手・取引先 | 拝読しました | 敬意・誠実 |
言葉の使い分けは、相手への思いやりの表れです。
「拝見しました」「拝読しました」を正しく使い分けられると、
あなたのメールや文章全体が、より上品で信頼感のある印象に仕上がります。

